名古屋簡易裁判所 事件番号不詳 判決
主文
被告人香宗我部秀孝を罰金一万円に、被告人西田徳造を罰金八千円に処する。
右各罰金を完納することができないときは、その分について金五百円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。
被告人両名に対しては、公職選挙法第二百五十二条第一項の規定を適用しない。
訴訟費用は全部被告人両名の負担とする。
理由
被告人香宗我部秀孝は、昭和二十六年五月七日名古屋市商店街連合会の機関紙として第三種郵便物の認可を受け、同連合会所属の会員等を主たる購読者として、毎月一回乃至三回位発行せられる名古屋商店街新聞の編集兼発行人の職にあるもの、被告人西田徳造は肩書住居において百貨店を経営する傍ら、前記連合会の理事、事業部長等を兼任し、併せて同連合会の傘下にある名古屋市北区商店街連合会の会長の職にあるものであるが、昭和二十七年十月一日衆議院議員の選挙が施行せられるに際し、前記名古屋商店街連合会の会長である山田泰吉が、同年九月五日被告人西田を含む同連合会役員等より推されて、愛知県第一区より立候補の届出をしたところ、
第一、被告人香宗我部秀孝は、「山田泰吉氏名商連推薦候補と決定」と題して、同月二日名古屋ホテルにおいて開催されたる名古屋市商店街連合会臨時総会の席上、満場一致を以て右山田を推薦し、同人を国会え送る決議をした旨を記載し、且つ同人の写真を掲載した前記商店街新聞号外約二千九百四十六枚(内三百七十二枚証第一号乃至第七号、第九号)を、同月十一日頃から同月十四日頃までの間、右山田泰吉の選挙運動のため、前後十八回に亘り、別表(一)記載の通り、名古屋市昭和区郡島町一丁目一番地丸山久男方外十七箇所において、いづれも名古屋市商店街連合会傘下の団体役員等である同人等十八名に対し、各所属会員に配布方を依頼して交付し、
第二、被告人西田徳造は、相被告人香宗我部より前項記載の通り商店街新聞号外約千枚の交付を受けるや、前同様山田泰吉の選挙運動のため、同月十三日頃、自己の店員鈴木芳雄に命じ、別表(二)記載の通り、名古屋市北区深田町一丁目四十八番地長谷川脇三郎方外六箇所において、前記北区連合会傘下の団体役員等である同人外六名に対し、夫々各所属会員に配布方を依頼して交付せしめ、
以て夫々選挙運動のため、法定の通常葉書以外の文書を頒布したものである。
(証拠説明省略)
尚弁護人等は、公職選挙法第百四十八条の立法精神に徴するも、又同条第三項の文理解釈よりするも、本件名古屋商店街新聞が同条に所謂新聞紙に該当することは明かであるから右新聞紙として選挙に関する報道の自由を有し、被告人等の所為は罪とならない。もし右に該当しないとしても、商店街新聞は通俗的な意味での新聞紙であるから、同法第二百三十五条の二第二号等を適用すべきであつて、一般の文書図画の頒布制限違反の罪に問わるべきではない旨を主張するので、以下この点につき考察を加える。
元来右公職選挙法第百四十八条の立法趣旨が、憲法の保障する表現の自由と選挙運動のための文書図画の制限との調和をはかることを眼目とし、直接的には選挙運動のみを目的とする所謂モーロー新聞の濫発等を防止するにあることは、弁護人等所論の通りであるけれども、法が右の趣旨を徹底せしめるため、同条第三項において、同条の保護を受くべき新聞紙の定義を掲げ、一定の框を画した以上、同条項の解釈が厳正になされねばならぬことは論を俟たない。而して同項第一号イ及びハの規定を綜合すれば、同条の適用を受くべき新聞紙たるには、「毎月三回以上号を逐つて定期に有償頒布することを立前とする」は勿論止むを得ない事情ありと認められる場合等を除いて、「当該選挙の選挙期日の公示又は告示の日前六箇月以来現実に毎月三回以上頒布されて来たし、将来においても亦同様引続き発行頒布されるべきもの」たるを要することは明かである。蓋し単に毎月三回以上の発行を立前とするのみで十分と解すれば、例えば右の趣旨を定款に掲げる等の処置により容易に脱法的措置が構ぜられることとなり、延いては本条の立法精神が破壊されることとなるからである。飜つて本件の場合をみるに、被告人香宗我部秀孝其の他関係各証人の供述及び押収に係る名古屋郵政局長作成の証明書(証第一四号)の記載等によれば、本件商店街新聞が毎月三回発行することを立前としたことは明白であるけれども、他面特段の事情もなく屡々休刊し、昭和二十七年三月以降本件選挙に関する選挙期日の公示日の直前である同年八月末までの間において、三回発行されたのは、四月、五月、七月のみであつて、三月、六月、八月の如きは僅かに一回発行頒布されたに止まる事実が看取されるから、本件号外を以て前記商店街新聞と同一視するとしても、同新聞は前記公職選挙法第百四十八条に所謂新聞紙には該当しないものといわなければならない。
次に本件訴因は被告人両名の前記新聞紙の各頒布行為自体であつて、選挙に関する報道の掲載等を対象とするものではないし、一方新聞紙及び雑誌に関する同法第百四十八条第百四十九条第二百一条の六等の規定は一般の文書図画による選挙運動の制限規定に対する特例と解すべきであるから、右特例のいづれにも該当しない本件新聞号外の頒布行為が一般文書図画の頒布禁止の規定により処断せらるべきは当然であり、したがつてこの点に関する弁護人等の主張も亦之を採用することができない。
法律を適用すると、被告人香宗我部秀孝の判示第一、同西田徳造の判示第二の各所為は、いづれも公職選挙法第百四十二条第二百四十三条第三号に該当するところ、所定刑中罰金刑を選択し、その所定金額範囲内において被告人香宗我部秀孝を罰金一万円に、同西田徳造を罰金八千円に処し、被告人等において右各罰金を完納することができないときは、刑法第十八条に則り、その分について、金五百円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置することとするが、飜つて本件各犯罪の情状を考察すると共に、社会の指導的地位にある被告人等が、本件の如き軽挙に出でたことは誠に遺憾ではあるけれども、他面本件各犯罪は所謂形式犯に属し、且つ法律的専問家でない被告人等としては、恕すべき点がないでもなく、其の他諸般の情状は、被告人等に対し今直ちに選挙権及び被選挙権を停止することがいささか酷に失するものと考えられるので、被告人両名に対しては、公職選挙法第二百五十二条第三項に則り、同条第一項の規定を適用しないこととし、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条を適用して、全部被告人両名の負担とする。
以上の理由により主文の通り判決する。(昭和二八年七月二七日名古屋簡易裁判所)
(別表は省略する。)